とんとむかし。
 ある裕福な商家に、ひとりの女の子が生まれたそうな。
 蝶よ花よと育てられたのに、なにを間違ったんだろうねぇ。

 その子は、あるときやってきた旅の尼さんにあこがれて、とうとう遊行 ゆぎょう
の旅についていってしまったんだと。
 そうして、師尊がいなくなっても、師妹がいなくなっても、
 その子はずっと「ひとりでも多くのひとに、手をさしのべたい」って、修行に打ち込んだんだって。

 五大山ごだいさん、あっこに見えるお山にはねぇ、不思議な力があるって昔からの言い伝えなんだ。
 『仙権せんけん』って、言ったかねぇ。
 強い願いがあれば、お山が答えてくれるんだと。
 とにかく、その子は「ひとりでも多くのひとに、手をさしのべる」ために、その力を手に入れたんだそうな。

 ねぇ。あんた、どう思うかね。
 そんな力、なんも払わずに手に入るもんかねぇ。
 善いことをしたとして、必ず善い結果がかえってくる──そんな虫のいい話、あると思うかね。

 もう、百年も前になるかねぇ。
 その子はいつしか、立派な尼さんになったって。
 名前を、六花法師りっかほうし、といったそうだよ。
 今はもう、どこに行ったかもわからんけどねぇ。